弁理士うめざわブログ

特許事務所の弁理士による、特許事務所業界ブログ

弁理士資格は目指す価値があるか否かなら、ないという結論になる

弁理士資格に価値があるのかというのは、その人の立場によって
答えはいくらでも変わってしまうのが実際のところです。

自分はといえば、多分エンジニアは向かないなということで
企業知財に入り、企業は不向きかなということで特許事務所に入り、
勤め人の限界を感じて独立したという消去法的な人生なのですが、
その消去法的な選択肢を取ることができたという点で、
弁理士資格を目指す価値があったという結論にはなります。

独立して2年になろうというところで思うのが、
何とか士という資格職は、独立開業には非常に向いています。
一念発起して会社を興そうというのは非常にリスクが大きいです。
飲食業なんて話を聞く限り大変な感じです。恐ろしいです。
それに比べれば資格職の開業リスクなんてたかが知れてますし、
その中でも特に弁理士は非常に恵まれてるなと思います。
そういうのを目指す人にとっては弁理士資格は非常に価値があります。
ぜひ頑張って難関を突破して欲しいと思います。

けどですね、世の人の大半は独立開業志向ではありません。
弁理士資格を手に、勤め人として待遇を改善したい
と思っているようです。そういう人にとって、
資格取得は価値のある選択肢なのか?

主観ではいかようにも結論は出せますが、客観的には、
弁理士資格を取った後に進みたい選択肢から類推できます。

資格取得後、企業と特許事務所、どちらを希望しますか?

弁理士資格に価値があることに疑いがなかった時代は、
弁理士資格を取得したら、企業なんてとっとと辞めて、
特許事務所に就職していました。では今はどうか?
正直、企業志望者の方が多いのではないか、
そして企業勤めで資格取得をしても辞めてくるケースは
少ないのではないか、と思うのです。

言うまでもなく、企業に残るのならば、弁理士資格は
取得のための負担に見合う価値はありません。
弁理士登録のための費用すら出してくれないのが現状です。

弁理士資格取得に価値を見出してもらえない環境(企業)と、
弁理士資格取得に一応価値がある環境(特許事務所)と、
比較して前者を選んでいるというのが近年の状況です。

という客観的な背景を見る限り、弁理士資格を目指す
価値は、努力に見合わないということになります。
もちろん資格取得の試験勉強が苦ではない人は別です。
この業界案外そういう人が多い気がします。

弁理士試験を受けて受かって、会社を辞める人が
多数派になってきて、そこで初めて弁理士は目指す
価値がある、といえるのではないかなと思います。

指標的には弁理士試験統計の受験者の内訳で
「無職(=浪人)」の数が顕著に伸びることが必須です。
昔は結構多かったです。今は激減している、というのは
その程度の価値になっていることを意味します。

結局難関資格は、独立若しくは共同経営(パートナー)
になってなんぼのものだと思うので、
単なる一スタッフに留まるのなら、資格を目指す
意味はないように思うのです。
再三ブログの中で大手特許事務所は目指す価値がない、
といっているのはそういう背景からです。
規模が大きい、というのは上が詰まっている、
というのとイコールなのです。
多くの場合は、パートナーへの道すら閉ざされています。

価値と負担のバランスが崩れているのだから、
特に若い世代が減っていくのはごく自然な成り行きです。
合格者数を維持して難易度を下げるか、合格者数を絞って
価値の回復を待つか、ということになります。

まあ雇われない人生を歩みたいなら、案外受かってしまえば
どうとでもなる感じはしています。自分は弁理士資格とは、
本来そういうものではないかと思っています。
その点、目指す方向次第という月並みな結論になるのですが。

大手特許事務所に入って3年で辞めるのは正しい

自分は大手企業の知財部、比較的小規模な知財部、
小規模の特許事務所は経験したのですが、
実は大手の特許事務所に入ったことはありません。

自分は最初が企業の知財部からだったので、
企業目線でいうと、大手でも中小でもやる仕事の
内容は変わらないでしょと思うのです。
そして今は大手特許事務所に発注する
傾向が増えてきていますが、
当時は小規模事務所が多数であり、腕が良いならば
大手企業からでも普通に発注数は多かったです。

実際に大手の特許事務所の人の話を聞いてみても
そんなに本質的に仕事の内容は変わらないようです。
もちろん法律事務所併設で、権利化業務以外の
比率がそれなりに高いところは別ですが、
規模が巨大な特許事務所では、得てして明細書作成
業務ばかり大量に受任したりしています。

そんな中、大手特許事務所に入所するのは、
大手というものに幻想が過ぎないかという面は
あるのですが、未経験又は経験が浅い段階で
入所するならば、零細よりも良いのかなと
そういう面はあると思います。

特許事務所業界の最大の弊害は、「明細書かくあるべき」
というような頑固おやじ的な弁理士ないしは技術者が
変に自分のスタイルに合わせようとしすぎて、
指導を受ける側が疲弊してしまうという点です。
零細事務所の場合はそのような当たりはずれが非常に
大きく出てしまうため、外れを引いてしまうと大変です。

その意味だと大手特許事務所の場合、外れを引く
可能性は比較的低くなります。
「大手だから体制ができている」などというのは
おそらく間違いだと思いますが、
指導の段階であまりに指導しすぎるという点が
比較的少ないように思われます。

指導する側も自分の仕事がありますし、
仕事も大量に入ってきてますので、
その案件はまあそんなもんでいいんじゃない?
という感じの肩が抜け方ができている
ケースは小規模よりある感じはします。
もちろん程度問題ではありますけどね。

「どうしてこんな誤記をしたんだ!!!」
等と怒鳴り散らす人は結構いるんですよ。
最近は減ったかもしれませんが。
聞く限りそういう事務所は衰退傾向にあるようです。

そういう業界入りたての頃の外れを引く
リスクの低減という意味では、最初に
大手特許事務所に入るというのは良いのかなという
気はします。入ったことないから分からないですが。

ただ大手に入るのってそれ以外のメリットは
あんまりわからない感じですね。
別に待遇がいいわけではないし。
比較的大規模で待遇がいいとこもありますが、
待遇と規模の相関性は薄いので、
最初に大手に入って、そこで情報を集めてから
優良特許事務所に移るというのが
戦略的には正しいのかな
ということで表題の結論になります。

特許明細書の外注募集の話はいくつか聞いてます

特許事務所の求人と違って、特許明細書を外注で作成してほしい、
という募集は大っぴらにすることはできません。
ウェブサイトなんかは不特定多数が見るものですから、
お客さんの目に留まって、そういうことはやめてほしい、
という話にならないとも限りません。

しかし実際には仕事というのは急増してあふれるものですので、
雇用はできないけど、スポットで受けてほしいという
要望は世の中にいは案外あります。

自分も正直1年少し前までそういう外注案件を受任して
生活費の足しにしていました。
やっぱり独立開業したてはそういう案件も必要に
なることがありますし、単純に在宅勤務を
希望される方は世の中には結構いたりします。

発注側としては希望のものを作成してくれれば
良いのですから、一定のスキルがあるならば
どんな人かについてはあまりこだわりはありません。
あとは、待遇面の折り合いだけです。

求人がこれだけあるのですから、外注希望も
それ相応にはあるのですが、上記の事情で
表に出ることはありません。
求人をよく読むとそれっぽく見えるものありますが。
大体伝手をたどって人を探す感じになります。
そういう市場がアクセス可能な形で形成されると
良いなと思ってます。

 

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コンサルティングは格好いいという風潮

これからは弁理士コンサルティング能力が求められる。
一見もっともな話です。あまり反論しづらい主張なのですが、
その意味するところってのがバラバラな結果、
本当にそうなのか?と思われている方は
多いのではないかと思います。

コンサルティングって言葉だけで言うと、
「相談に乗ること」だそうです。相談には乗りますよね。
商品を売る商売ではないものですから、単にサービスを
提供して終わり、ではなく、その依頼の意図するところや、
顧客の本来の目的を達すべく、色んな話を聞きながら、
的確にアドバイスをするということは大事なことです。

そういう意味であれば、あくまで通常業務の周辺部分です。
相談業務単体で費用をいただくこともなくはないですが、
それはイレギュラーな話であって、それが単体で主業務
になるような話にはなりにくいような気がします。
主業務を補完する意味合いのものになります。

料金をいただくというのは、何らかのアウトプットが
生じたことによるものでないと、なかなか請求がしづらい、
という側面があり、例えば権利化というような
業務の輪郭がはっきりしているようなものだと
請求関係もはっきりします。
それ以外でも、何らかの成果物が生じたものであれば
請求はタイムチャージベースで検討したりします。
一方、いわゆる「コンサルティング」って
なにか難しい感じがしますね。

なのですが、最近話題にされてきている「コンサルティング
というのは上記自分の理解とは違うように思われます。
コンサルティング単体で費用請求が発生する性質のものを
想定されているように思われます。

自分の理解とは違うようなので、ではそのコンサルとは
何ものなのか、ってのがいまいちつかめないのですね。
自分が分かってないだけなら不勉強なだけなのですが、
どうもそれを大事だと申している人たちも実はあんまり
分かっていないのではないかという感じがします。

何やらコンサルという格好いいものがあって、
それをやるとお客さんが有難がって大金を払ってくれる、
そういうものであるように思われます。
そんな馬鹿なと思うのですが、どうもそう理解されている
ように思われてなりません。

提供すべき何らかのソリューションがあって、
それを分類しづらいから便宜上コンサルと言っておく、
というならなんとなく分かる気はします。
しかし、コンサルという1つのジャンルがあって、
それを提供すべきサービスの1つとする、
という流れがあるならば、そのコンサルって何ですかと、
そうなるのですが、どうもよく分からない感じです。
その状態でそのサービスを押し出すのって非常に危険な
状態だなあという印象です。

まああれは良さげだから何となく乗っておこう、
というのはどんな分野でもありがちな話ではありますけどね。
そんなに格好良いものなのかなあというのは自分的には疑問です。

弁理士の待遇が下がったのは特許の件数が増えたから

前回の記事を見直してみて、話が散漫になったのですが、
特許の価値ってのは特許そのもので決まるのではなくて、
特許を背景とする事業の価値で決まるって話です。

1つの事業について、特許取得件数自体は少ない方がよく、
取得するのであれば、1つ1つに裏づけが本来は
必要であり、そうないと無駄な権利ということで、
特許の価値が希釈化されていきます。
そうは言っても出願段階では分からないよ、
って話になるので、そこは先読みが必要になります。

先読みというのは各人のセンスや才覚の問題になるので、
事業体が大きくなるごとに馴染まなくなってきます。
組織というのは大きくなるほど属人性を好まなく
なりますし、誰がやっても回るのが組織であるので、
センスや才覚を吸い上げる仕組みではなくなってきます。
その結果として1つの特許に対する価値が下がってくる、
という問題が起きてきます。
1つの特許の価値が最大化するように出願戦略をとる、
というのは会社組織としてはなかなか難しそうです。
単純に増やすか減らすかという方向性に傾きがちです。

それで表題の話になるのですが、特許1件あたりの価値が
下がってくるのであれば、それに対して払えるコストの
大きさも下がってきますよね。
弁理士代理人手数料の低下ってのは、本質的にそういう、
特許そのものの価値の低下の問題として考えられます。

例えば特許1件の価値が非常に高い薬品業界の場合、
案件単価が下がったと言う話は聞かないですよね。
薬品まで行かなくても、化学関係も単価を叩く動きは
特に聞かないように思います。
この辺は大量取得戦略ではないからですね。
大量取得戦略というのは、電気機械メーカーです。

一部の団体の動きに、特許出願件数の増加を促そう、
と同時に単価の増加も求めよう、というものがありますが、
こういう背景を考えると、それは背反するものを
両方とも求める話なんですよね。
基本的に総数として特許取得件数が増えれば、
特許1件あたりの価値は下がるはずです。
価値が下がれば当然単価は下がります。
特許の価値を最大化する出願戦略という視点は
実際のところそこまでメジャーであるようには思えません。

で、結論として単価の引き下げ圧力となれば、
労働時間あたりの売り上げが低下するのだから、
弁理士本人の待遇の低下となります。

こうなってくると、大量出願をする会社には
代理人としては近づくのはやめよう、
という動きにならなければなりません。
大量出願と相性がいいのは受任キャパが多い
大手特許事務所となります。
大手特許事務所ほど待遇が上がらないという
からくりがここに生まれてくるわけです。

「大手に行けば待遇がいいと思った」、と後悔する
弁理士が多く、そこで中堅になってからやめたりします。
大手は得てしてどこも中堅がすっぽりいなくなっていて、
クライアントから「大手だから品質が高いと思ったのに」
という嘆き声が聞こえてきたりします。
日本においては「大手」というのは一種の信仰のような
面があるのですね。そこには何の裏づけもないのですが。

多分、弁理士としての将来性は、自分がやっている仕事は
いかなる価値を生んでいるのか、に対するイメージを
膨らませていくことなんだと思います。
自分は何を目指しているか、となると、それは
まだまだ模索中ということになるのですが。

いずれにしても、自らが生み出す価値の高さに比例して
待遇なんかも上がってくるのではないかと思います。
付加価値の高さというのは単に件数を処理する、
という話とも違うのではないかと考えます。