弁理士うめざわブログ

特許事務所の弁理士による、特許事務所業界ブログ

コロナ下の4連休は特許翻訳でつぶれる

あんまり自分の日常というのもブログで書いていなかったと思うので、
久々にこの連休の過ごし方というのを書いております。
外出は連休を避けて火曜日に妻と終日遊んできました。
で、この4連休は特許翻訳をしてつぶします。

特許翻訳ですが翻訳者に依頼すると言うのもあるのですが、
うちの場合、翻訳が必要なタイミングが結構期限間際になることが多いです。
そうなると、翻訳会社などは2週間ほど時間を下さい、
ということになってしまい、時間がありません。
ですので、内外、外内ともに全て自分で翻訳しており、
うちの特許事務所の業務として割と高い比率を占めております。

翻訳は実際に着手するまではボリュームが分からないこと
が多いのですが、実際にざっと読んでみて、
今回はなかなかボリュームが多い。

なお、自分が書いた明細書を翻訳することはここまでなく、
お客様がうち以外で国内特許出願したものを、
弊所に依頼して内外から受けるものが全てとなっております。

ですので、翻訳者の気持ちが分かるというか、
あー、ここ自分ならこう書くなあと思うのですが、
パリ優先ではなくPCTですので、内容の変更はできず、
せいぜいクレームを呼び補正するくらいしかできず、
色々思いながら翻訳をしています。

外に出したくないのは理由がもう1つあって、
内容的に繰り返しの部分が特許の場合多いですよね。
そこの部分までチャージされるのがもったいない気がするのです。
切り出して翻訳依頼すればよいのでしょうが、
もちろんそんな時間はないので、自分でコツコツ翻訳です。

自分で書いた明細書ではないので、内容理解から入ります。
文章を読んでみて、要所とそうでないところ、あと繰り返し部分、
そういった明細書の構造面にまず着目します。
ポイントを把握したらクレームを理解します。
この辺は普通に明細書読むのと変わりないですね。

なかなかずっと集中し続けるのはしんどいので、
専業の翻訳の人たちはずっとこんな作業を続けていて、
こういうの適性というのがあるのだなあと感心したりします。

そういうことを思いながら仕事をする連休です。
早く終わらせないとと思っています。

西新宿の喫茶店にて、マッチングアプリの面談を見た

特許事務所の仕事は基本的に事務処理なのですが、書類を読むだけ等、
事務所の中でなくても良いこともあり、気分転換をしたいなどの
理由で、近所の喫茶店に行くことがあります。

私がいる新宿アイランドタワーでは、サンマルクエクセルシオール
ドトールがあり、ちょっと歩けば喫茶店は他にもいくつかあるのですが、
ビル内の喫茶店に行くことがほとんどです。
その中で、サンマルクカフェに入ったある日のこと。

ここ最近は新型コロナウイルスの感染状況により、
客数も減っており、席もソーシャルディスタンスで離されています。
それでも雑談をする人はいることはいて、いつもより
余計に会話の内容が聞こえてきます。

新宿という土地柄、いろんなミーティングをしている人がいます。
仕事の打ち合わせをする人もいます。怪しい商材を売りつけている人もいます。
彼らはなんか得意そうです。得意そうというか時には偉そうです。
ドヤりながらなされる会話を聞きながらいつも微妙な気持ちになります。

そんなある日、一組の男女が席で会話をしていました。
商談の雰囲気ではなさそうです。実際のところ、カップルというのも
それほど少なくはありません。聞こえてくるのでなんとなく聞いておりました。

女「お仕事は何されているのでしょうか」
男「半分公務員というか、公益社団法人で働いています」

カップルではないですね。保険の営業という雰囲気でもありません。
男性が積極的に会話を進めていますが、初対面の内容ですね。
昨年婚活をしていた私に言わせればこれはマッチングアプリです。

マッチングアプリ、そう、pairsやwithなどの、結婚を前提をした
出会いを提供するアプリですが、身分の保証などがないため、
結婚相談所や結婚情報サービスに比べて信頼性は劣ると言われています。
が、なにぶんにも安いため、利用は大きく広まっているそうです。

男は自分の仕事の話を進めましたが、「分かりにくいですよね」
等と言っていました。あまり初対面で仕事の話をのっけからするのも
微妙です。今年入社のようです。コロナ入社なので、
最初からいきなり自宅待機になった、在宅勤務のシステムがない、
等と話をしていました。

会話はなんとなく進行していますが、いまいち盛り上がってはいません。
しかたありません。初対面の男女です。ただ恐らく
メッセージのやり取りは事前にしていた可能性があります。

なお、結婚相談所では男性はスーツ指定です。
新宿の場合、基本的には京王プラザホテルのラウンジになります。
土日昼のホテルラウンジは、お見合いの男女であふれております。
この日の男女はその意味ラフな格好でした。

どうしてもぶっつけ本番だと展開が微妙になりますので、
会話の内容はあらかじめ用意した方が良いです。
数こなすなら、定型化しておいた方が良いかも。
聞き耳を立てている限り、今日も微妙な会話が繰り広げられています。

段々かったるくなってきたのでお店を出ました。
なんとなく一息入れたくてお店に入ったのですが、
特に楽しい訳でもなく、興味津々でもない話題を聞くのも何だし
聞かれるのも微妙でしょうし、
自分もそこにいてもいまいちリラックスできません。

進まない仕事の状況をリフレッシュできない
いつもながらの日々を、その日も過ごしておりました。

弁理士試験に合格して人生が変わる人と変わらない人

弁理士試験に受かることでなにかいいことがあるのか?
については色んな議論があるのですが、これははっきり言って
その人の立場によります。まず最初に弁理士試験に受かっても
そんなに人生が変わらない人の例として、

1.大手企業知財部を有し、資格を重視しない会社
2.大手特許事務所でひたすら明細書を書く人
3.資格は取ったとしてもキャリア的に転職のハードルが高い人

こうした人は確かに人生変わらないかもしれないですし、
本人自身もそういうことを言っているケースは少なくありません。
ただそれでも、実際に何の影響もないかというとそんなこともなく、

1.企業の場合、それ単独で昇進の理由にならないとしても、
加点要因には間違いなくなります。その結果昇進したら
人生が変わったことになるでしょう。

2.資格を取ってもその特許事務所にいる限りにおいて、
資格手当が出るだけだとしても、この職業の性質として、
転職を考えることは十分にあります。
実務能力+資格は、実務能力単独より間違いなく価値があります。
転職を考えたくなったときに力を発揮しますし、
その分だけ人事上も多少は考慮せざるを得なくなります。

3.過去のキャリアが低い(文系未経験など)の場合でも、
採用が0ということはありません。条件の悪い就職でも、
どこかに潜り込んで成り上がりたいなら、どこか就職はできます。
0からスタートする意気込みがあるなら資格の価値はあります。

こんな風に、資格の価値が評価されない職場であっても、
ある程度評価も見込みがあるのですから、
それ以外の職場ではもちろん評価は高く、人生が変わることが
あるでしょう。

1.小さめの知財部など、弁理士資格が評価される環境
2.弁理士数が少なく、パートナー参画の可能性が高い特許事務所
3.まだ知財業務についておらず、これから転職をする人

ざっくりいって、小さい職場や、対応する知財レベルが
高くないクライアント業務に対応する場合、弁理士資格は生きてきます。
転職の場合も、経験や年齢が重視されるとはいえ、未経験者の場合、
ないよりはあった方が評価の対象になりやすいことは間違いありません。

私自身は独立している関係上弁理士資格は必須なわけですが、
顧客の知財レベルははっきり言って高くはありません。
基本的にこちらに聞かないと知財的対応については
分かりません、というお客様ばかりです。
こういう環境だと、弁理士資格は専門家としての評価になります。

まわりが実務家ばかりだと明細書の品質チェックとか、
資格以外の評価が強まりますが、世のなか知財の知識がある人
の方が少数派ですので、知財初めてですの多くの人の中では、
弁理士資格は意味を持つことが多いように思います。

そんな風に弁理士資格が生きてくるかどうかは環境次第ですので、
弁理士資格を取得した後は、どんな環境に身を臆かも重要です。
そんな気持ちで弁理士を目指していくのも良いのではないでしょうか。

根拠なき主戦論-ファーストリテイリングの場合

特許の相談を受ける場合、小さい会社からの依頼だと、
基本的には特許出願の依頼がほとんどで、、特許侵害をしていないか
確認をしたいという問い合わせがたまに、という感じです。

ある程度大きい会社から受ける場合は、時々こんな特許が
あるのはけしからんのだけどどう対応したらよいのか、
という問い合わせが入ったりします。
特許侵害に対して、自分の方の責任と考えず、相手方に転嫁するケース。
そう、今回のファーストリテイリングの場合に近いです。

私がお問い合わせを受けたのは、ある程度大きい会社だけど、
特許部はないケースです。この上に特許の部門を持つとなると、
特許出願やスタッフの人件費などのコスト要因が大きくなってきます。

知的財産ってのは基本的にコスト要因なんですね。
ただし、そのコストを支払うことによって事業を保全するというものです。
ファーストリテイリング社の場合は本当に単なるコストとしてしか
考えていなかったようですが、アスタリスク社からすれば
本来の意味での事業保全を図るための駒になったということでしょう。
パテントトロールからの特許訴訟であれば、ユニクロもあまり
叩かれなかったでしょうが、取引があって、コンペがあって、
その前に特許を押さえていた、という経緯がありますので、
風向きはユニクロ側不利になっているように見えます。

ファーストリテイリングは今までパテントトロール的な団体から
特許の争いを持ち込まれたことがないのでしょうか。という印象を受けます。
特許訴訟で過去に敗北して会社を傾けるほど多額の損失の出した特許
というのは得てしてしょぼい特許です。完全につぶしきれるのでなければ
早期和解を勝ち取るのが妥当であり、今回のように下請けが、という
対応になってしまうとマスコミ沙汰になったときに、悪者扱いになります。

ファーストリテイリング社の知財部の状況を察すると、おそらくかわいそうな
状況がありまして、経営者から「こんな特許に折れなければならんとは
けしからん、なんとかならないのか」というお達しがあったに違いありません。

権利行使を受けて、無効資料を探すのは常套手段ですが、
請求項3がつぶしきるかどうか分からない、となったときに、
訴訟に至る前に水面下で、ほとんどの知財部は決着するように思います。
特に今回は相手方が主戦論に気乗りではなかったわけなので。

企業知財というのは知財だけ整えても仕方がないのですよね。
会社全体として知財に対するコンセンサスを得る必要があります。
発明が出てきたら発掘する、今回のように大々的にアピールするシステムの
場合にはクリアランスも行う。そして、押す引くの判断にも敬意を払う。
今回は増して向こうから特許出願しています、と言っている訳ですから。

最終的には和解、ライセンス料支払いで決着するでしょうけど、
こういうのは早めに決着しないと支払額は大きく跳ね上がる訳です。
知財側のアドバイスに経営者が耳を傾けるためには、
たまにはこういう痛い経験も必要なんだと思います。
大体の大手企業は多かれ少なかれ、痛い経験をして
知財の体制を整えるに至っています。
それ考えるとファーストリテイリングは安い金額で
いい経験をしたのではないでしょうか。

ユニクロ・セルフレジ特許訴訟

上記の内容がトレンドになってきましたので、ちょっと記事を書いてみます。

訴訟の経緯はここにかいてあるようなので、抜粋してみると、

diamond.jp

ユニクロにセルフレジ、設置されていますよね。
これを一時取引関係があった株式会社アスタリスクという会社が
特許を保有していて、製品もコンペに出したところ、
他社製品を採用されてしまったという経緯があるようです。
特許出願中であることは告げていたようです。

特許は成立し、ユニクロはセルフレジを継続、
特許侵害訴訟に踏み切ると一方で、ユニクロ側は特許無効審判を提起した、
という流れです。

該当する特許はこちらです。

メンテナンス情報 (Maintenance information) | J-PlatPat/AIPN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
を備え、
前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。
【請求項2】
前記アンテナよりも前記開口側に配されて、前記物品が載置される載置部を備えた請求項1に記載の読取装置。
【請求項3】
前記シールド部は、
前記電波を吸収する電波吸収層と、
前記電波吸収層の外側に形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の読取装置。


請求項1と2が無効になって、請求項3が残ったようです。

特許そのものや訴訟の経緯よりも、ユニクロという会社の内情について
公開情報から調べてみます。

まずjplatpatで「ファーストリテイリング」で検索してみます。
特許・実用新案の合計で31件です。会社の規模を考えると少ないですね。
2014年から急に特許出願件数を伸ばし始めたようです。

弁理士数を調べてみたところ、弁理士は2人です。なお1人は知っています。
対応に追われて大変ですね。


話を戻しますが、ざっと見て、権利範囲が広く、
それでいてクレーム数が4(請求項4はシステムクレームなので省きました)
と少ないので、無効審判でつぶせると判断したのでしょうか。

最終的に当初より求めてきたライセンス料の支払いで妥結すると思われます。
ただ、気になるのが、


記事中、

しかし、ファストリ側には「この特許は金を払うに値しない」と一蹴されたという。

とある点です。

こういうありきたりな権利範囲の特許について、こういうことを言う事業者、
多いんですよ。

こんな当たり前の話に特許料なんか支払いたくない、こう言うんです。

そういう形で相談を受けたことは独立してからいくつかありますが、
その話をまとめて思い返すと、特許制度に対する敬意がない感じがあるのです。
こんなのあたりまえだから、何とか特許を使用しないようにできないか、
こういう話です。異議申し立てや無効審判をかけるならまだいい方で、
そんなことにお金を払いたくない、という話になることも多いです。

無効資料を探すのは良いですが、完全につぶしきれない時点で
もうちょっと対応というものがある感じがありますが、
会社の上下関係を垣間見て、そこも含めて微妙な印象があります。