弁理士うめざわブログ

特許事務所の弁理士による、特許事務所業界ブログ

独立して事業を継続していくにはある程度の狂気が必要

弁理士業、特許事務所と言うのも資格職とは言え、1つの事業体、
会社のようなものな訳で、会社経営と言うのが必要になります。
そういうものというのは、5年やってみてこれは狂気が必要だな、
ということを思うようになりました。

良く会社経営では、経営者と実務者(例えば技術者、営業マン)の
二人三脚がうまくいく、と言うようなことを言います。
経営者と言うのはやっぱり独特な資質が必要だなと思います。

どんな資質と言うかと言うと、先行投資です。
例えば1000万円と言う先行資金を、まだ利益が回収できている
訳でもないうちから、これは必要だからと先行投資できないと
いけません。これもうアカギのような勝負師的なものが
ないといけません。だってこんな投資をなんとなくやっていくと
あっという間に破たんしていきます。
しかしながら先行投資をしないとじり貧になっていくのです。
ソフトバンク孫正義は極端ですが、あんなふうに利益が出たら
さらに大きく張っていくのが経営であり、それを失敗しないように
目配りしながらやっていかないといけないので、
一般サラリーマン的な観点では正気では厳しい気がします。

そういう山を乗り越えれば、楽な場所にいるようには見えるのですが、
そこはそこでまたきっと厳しい試練が待っているのだと思います。
そういう狂気に耐えなきゃいけない中にいるからこそ、
その報酬として大きな利益を生むし、その代償として、
例えば愛人とかそういうものに走ったりするのかなと
そんな風に思ったりしました。

特許事務所の場合ですとシステム投資ですよね。
もう段々システム投資産業になってきた感じがします。
腕一本で食ってくのも難しいのかなと言う感じがします。
システム投資を倍々ゲームでしていかないと維持できなくなります。
集客そのものは案外何とかなったりします。
そこに注力しがちなのですが、ファイル管理とか、事務システムとか、
まともに導入していくと負担は飛躍的に大きくなります。
現物を保管していっても、床面積も足りなくなります。

こういう投資を賄える程度に儲けていく必要があるのですが、
儲けるというのもまたある程度の狂気が必要です。
お客様のニーズを満たすのが仕事になるのですが、
お客様のニーズを考えると安くしたくなるのですよね。
金銭面のニーズまで満たしてはいけないという
パラドックスもあるのです。欲しいけど高い物を
提供するのが経営でして、その辺の価格設定と言うのも
経営センスと言うのが問われます。
価格競争をしている弁理士もいますが、まともに付き合っていると
疲弊してきますし、そこまでしなくても依頼は入ってきます。

なんか、やってるとしんどい気持ちになってきて、
零細事業者そのものだなとそんな感じです。

特許事務所の現在の勤務環境とは

2019年現在私は特許事務所を運営しており、独立開業している訳で、
特許事務所に勤務している状況からは遠ざかっておりますが、
特許事務所での採用は難しくなっている、という話を聞きます。
優秀な弁理士、特許技術者を採用しにくくなっているようです。

ただまあ聞く限り、優秀な経験者をって話なので、
未経験者とか、経験の浅い方に関してはよく分からないです。
裏を返すと優秀な段階に到達に達した実務者には
転職先がいくらでもある状況になっています。

こういう状況を応募する側に立つか、採用側に立つかで
見方は180度変わる訳ですけど、採用側に立って、
いい人いないかと言う声はよく聞かれ、優秀な人材に
わが知財業界はもっと来てもらえるようにならないと、
と言うことを言う人もいます。

ただ、個別の特許事務所で優秀な人材確保が進むのは、
その特許事務所にとって好ましい状況であるのは
間違いないですが、業界全体として人材が流入して
くるのはどうなのかというと、あんまり好ましい感じがしません。

業界全体として特許出願件数は減ってきています。
それ以上に人材確保が減っているので、業界内で
仕事が潤沢に回っており、景気が良いという側面があります。
そんなに人を入れてどうするの?と言う気はしています。

リーマンショック以降、業界に本当の冬の時代が来たなあと
思いました。このブログはそのことの世界観をベースに
書かれているものであるので、今の業界の好景気には
ちょっと馴染まない感じも出てきました。
リーマンショックと言うのは、仕事量の減少もさることながら、
知財バブルの人材流入のピークでもあったので、
そこで氷河期感が強まったように思っています。

前から書いている通り、この業界にそんなに人が来るのを
あんまりよいとは思っていません。ただし、入ってくるなら、
仲間として何とか生き延びていけるよう頑張ろう、
という気持ちは持っています。

そんな景気のよい中、待遇がそこまで上がったとは聞かないのは、
特許事務所の経営力の問題もあるかなあと言う気がします。
単価を上げる、工数を落とす、と言うことをやっていかないと、
弁理士、特許技術者の待遇改善にはつながっていきません。
今はまだ企業知財と特許事務所、弁理士としてどちらに勤めるか?
と言う場合、企業知財を選択する人が多いです。
弁理士試験易化前は企業は辞めるのが普通でした。
企業を辞めるのが当たり前になって初めて景気が良い状況
と言えるようになるのでしょう。今はその段階になっていないと思います。

ただ弁理士業界として、ある程度の経験段階に到達すれば
食いっぱぐれが少ないというのは本当に良いことだと思います。
なんだんかんだ明細書が書けて外国対応ができれば、
食うのには困りません。いくつになっても働き口はあります。
この仕事のいいとこはまさにその点ですよね。

まあ勤務環境は良いとは思いますが、まだまだ向上の余地は残されている、
景気がいいとまでは達していない感じはします。
リーマンショック前を知っているとそういう感じを持ってしまいます。

特許事務所のコンフリクトは本当に仕方がないのか問題

弁理士業務、特許事務所業務として、どうしても直面する問題として
コンフリクトと言う問題があります。
要するに競合しあう複数の会社から業務受任するのは、
弁理士倫理上問題あるのでやめるようにと言う規定です。

このコンフリクトは発生するし仕方ないよね、
という意見を時々聞くのですが、それは本当にそうなのか、
と言うことを思うのでまとめました。

大手特許事務所の場合は、ファイアウォールを設けて、
競合の可能性がある業務については別部門で情報を遮断すればよい、
というのもあるようですが、実際にはクライアント側から
嫌われるようです。
大体情報遮断するならなんで同じ事務所なのだ、
と言う話です。同じ組織で情報を共有しません、
というのは同じ組織と言えない気がします。
別働体特許事務所をつくっているところはあるようですが、
そちらの方が潔いと思います。

じゃあなんでコンフリクトはダメなのか、と言うことの理解が
根底にあると思っており、その自分の理解をまとめてみます。
商標はコンフリクトは考えなくてよい、と言う話はされています。
商標は海賊版の防止を主な目的とするものであり、
原則として知的財産権を取得する規模の会社同士では
商標権上の衝突は起こらないものだからです。

一方で特許は、競合企業同士の戦争の武器という側面があります。
名称変更をすればよいという性質のものではなく、その技術がなければ
その製品を作れません。そのような独占性を確保するものです。
それを互いに持ち合ってライセンスしあう、と言うのが王道です。

特許権の権利化の際にはその技術の細部や用途までを
依頼人から聞きながら進めるのが一般的です。
その情報により、権利範囲を弾力的に変化させることになります。
そこで競合しあう両者の製品情報を持っていたらどうなるでしょうか。
A社の製品概要を、B社の特許の権利範囲に含める、ということが
得た技術情報の範囲で可能になってしまうのです。
悪意がなくても、これ似た話だな、と無意識に含めてしまうことが
あります。それは一方にとって不利益になる話です。

担当が違えばもちろんリスクは大幅に減りますが、
情報共有が本当にされないのかという問題があります。
技術も製品も同じな訳です。互いに関心がないこともないでしょう。

それを避けられないと言ってしまうなら、その特許の発明について
深く立ち入っていないということになります。
もちろん深く立ち入らずに完結する発明も多いでしょう。
ただコンフリクトを気にしても仕方ない、と言ってしまうことは、
どの案件に対してもその程度の関与しかしていない、
と言うことになってしまいます。
実際にそうなることはあるにせよ、それが通常と言い切ってしまうのは
どうなんだろうか、というのがコンフリクト問題に対する私の意見です。

立ち入っていない表面的な仕事しか受けていません、というなら、
それはもう下請け仕事しかしていないことを意味します。
当然価格も抑えられているでしょう。
ファイアウォールを設けるような事務所=下請け、というのは
そういうところから思ってしまうのです。

ですので、特許事務所と言うのは、法律事務所や会計事務所
のようなビッグフォーとかそういうのにはなじまない面があります。
彼らは競合しあう企業の依頼を受けても良いからです。
特許事務所は、依頼人に戦略的に従属する側面がありますので、
小規模化するのが原則です。
但し依頼人が大型化する場合には、作業部分のみを外注する
ようなこともあるでしょう。そういう業務を受ける場合のみ、
事務所の大型化はありなのかなと言う面があります。

独立後の知財業務と言うのは幅広くなる

独立開業してもう5年が立とうとしているのかあという中、
勤めの方からは独立とはどんな感じなのか、どんな風に仕事が来るのか、
というのが疑問なんだろうと思われます。
少なくとも自分はそうでしたし、だからと言って独立したての頃も
こんなもんだというのはなかなか書きずらいものがあり、
ようやくこんな感じなのかと言うのが見えてきたのですが、
忙しくてブログ記事が後回しの日々が続いております。

忙しいのもあるのだけど、忙しい最中にやるべき仕事をないがしろに
している感じもある中、ブログをそんなに頻繁に書いていいのかというのもあり、
ブログの記事がご無沙汰だったのですが、これではいかんと更新することにしました。

例えば自分はこの分野の特許明細書が書けます、というのは、
勤務時代は良いのですけど、独立してからはそれだけだと依頼は来ません。
しかしながら独立後の仕事と言うのは、勤務時代のようなプロ対プロの
仕事と言う感じもなく、誰か何とかしてほしいという感じのものを
それなりに仕上げてもらえればよいという感じの仕事が結構来ます。

やってしまえばそれなりにできてしまう仕事が多いので、
そこで仕事の幅を狭めるかどうかというのは1つの選択肢になります。

そこで狭めて自分の専門はこれだ、というのをはっきりさせるのも
それはありだと思うのですよね。その分当初の依頼は当然減りますが、
仕事が増えた後の効率化は楽であり、選別の必要性もありません。
ただやっぱり初めは仕事がないしなと言うのもあり、選ばない、
と言うのが一般的ではないかと思います。

で、受けていくと結構できてしまうのであれもこれもと受けるのですが、
できない仕事と言うのも当然あります。そういうのは断るのですが、
断り方と言うのも考えておかないと段々ドツボに嵌ってきます。
けどそれも結局できないというだけなので気まずい感じになるだけです。

困るのが、できるつもりでやったら落とし穴のようなものがある案件ですね。
最初に避けておくのが一番なのですが、これできそうだなと思って
受けてしまうと困ったことになります。
経験が少ない業務は、ある程度予防線を張りながら受けていく必要があります。
それでお客さんが逃げるのは仕方ないし、やっぱりほしい仕事と
そこまでではない仕事はきちんと分けておいた方が良いです。
で、中には最終的に困った状態になることもなくはないです。
そういう時には謝ります。何とかトラブルシューティングします。

良いお客様の場合はそれでなんとかなるのですが、
そこから先クレームになることもあります。
クレームになるケースと言うのは、こちらにも問題ありますが、
お客様もなんだかなあと言うケースなので、業務の選別は
本当に大事になります。今年はそんな感じでトラブルシューティングの年で、
忙しいのに儲からないなあと言う状況です、
仕事を受ける段階での選別をしくじらないというのが
年々大事になっていきます。

ここまで読んで分かると思いますが、単純に出願する、
と言うだけの仕事はあまり多くないのです。まあ出願権利化をするのが
弁理士業務なのですが、なんか違うのですよね。
業務範囲が幅広くなるので、うまくさばくということが重要になります。
と同時にいろんなことを幅広く見るようになりますね。

なんか色んなことをやっているなあと言う感じなのですが、
勤務時代と言うのは専門特化しがちなので、なかなかイメージしづらいですよね。
自分は直前の勤務先が割と何でも屋をやっていたので、独立後も
そんな感じと言う面はあると思いますが、独立前よりもはるかに
何でも屋になってしまっていて、それが良いのか悪いのかは、
その人の好奇心によると思います。
まあ専門特化するのも1つの道なので、人それぞれです。

最終合格者数284人(令和元年度弁理士試験)

2019年度弁理士試験は、最終合格者数が284人となりました。
昨年の合格者数260人、一昨年の合格者数255人、
2016年296人、2015年:319人、2014年:385人と、大体このくらいの推移です。

リンク先は以下の通りです。
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-kekka/2019gokaku.html

ずっと減少傾向だった合格者数が去年増えて今年は24人増えました。
受験者数は減り続けなので、合格率はその分だけ上がった感じになります。

合格者数の減少に伴い難化したと言われましたが、
数字から見て、再び易化傾向になりつつあるのでしょうか。
もちろん難関試験なので簡単には受からないのではありますが、
業界自体も景気は悪くないようですし、そこにアクセスする資格として、
やってみる価値は再び上がってきたようにも思われます。

合格者の方々はこれから合格祝賀会他、祝賀ムードが続きますが、
同時に実務修習、そしてその前の各種振込なども待っています。
合格された方はおめでとうございます。