弁理士うめざわブログ

特許事務所の弁理士による、特許事務所業界ブログ

忙しい自慢の特許事務所という時代錯誤は今もまだあるのです

 

儲かっているは自慢になるけど、忙しいは自慢にならない。
そんな感じの話題を何回も書いた気はするのですが、
改めて思うことがあったのでもう一度。

 

よく求人などで、業務多忙につき急募なんてありますが、
それなら仕事減らせば、としか言いようがない訳で、
その辺は今も考えは変わっていません。
慢性的な業務多忙は、受注管理を変える他
改善しようはありませんし、スポット的な業務急増は
ピンチヒッターにはしのぐことができません。
いったい何を募集しているのか、と思ったりします。

人取りたいなら、単純に待遇を上げればよいのです。
多分年収900万円以上とか書けば、応募者は増えるでしょう。
ただ、高い待遇のためには売り上げを上げないといけないですね。
待遇のための原資をどこから持ってくるかという話になります。

会社なんてのは結局儲かって何ぼなので、
利益の出る仕事に手を伸ばし、不採算業務は整理する
ということの繰り返しになります。
不採算業務のせいで忙しいなら、切れば良いだけのこと。
切れないまでも、えいっと荒療治な判断を下すこともあります。
業務配分を整理できず、従業員に付け回すなら、
経営者として無能ということになりますよね。

ただですね、仕事が入ってきました、というときに
それを断らないまでも、積極的に取りにもいかない、
という判断は、経営者的に取り辛いというのも事実です。
依頼が入ってくるというのは、お金が降ってくるような
話ですからね。儲けが入るときにそれを拒絶する、
というのは会社というものの本質に背を向ける行為です。

一方で労働量というのはコストなわけで、そこを認識していない
経営者がなんだか思ったより多い訳で、そのなれの果てが
いつぞやのすき家の事件になるわけですね。
忙しいのは自慢にならないのです。単なるコストですから。
しかしそのコストに、売り上げが比例することが多いことから、
その結果、自慢になる要素もあろうかということになります。
その辺を整理するのが経営者の腕前です。

仕事を減らすこと自体は別に難しいことでも
なんでもありません。
断らないまでもこちらの要求を強めに出すだけです。
色々自慢したところで、顧客はコストとの兼ね合いで
発注先を決めているだけです。
自然と仕事の量は整理されていくでしょう。

結局売上げを上げたいという欲に対して、
従業員に割を食わせることを何とも思っていないから
業務多忙を放置できるのです。
「うちは忙しいです」という特許事務所は所詮そういう体質です。
応募の際にはある程度警戒した方がよいでしょう。

まあ経営者本人が忙しいのは仕方ないですけどね。
自分は忙しいのは本質的によくないことと考えていますが、
それでも業務集中を自分で受け止めなければならないのは、
独立事業者の宿命と考えています。
そこは従業員と全く立場が異なります。
リスクを取ったことの対価を全面的にとる立場ですから。

特許事務所の労働量は二極化しています。
定時退社できる職場と、過剰な残業量に追われる職場です。
月残業30時間程度というのは案外少ないです。

特許の仕事なんて稼げるから人気になるのであって、
稼げない知財業務なんてトイレの紙より役に立ちません。
知財バブルが起こったのは、儲かる資格が簡単に
とれるようになったからで、それ以外に何かあるのでしょうか。
やりがいなんて言うのはワタミの会長とかと同じです。

その一方で今はワークライフバランスというのもあります。
経営改善をして利益を上げるのもそう簡単ではありませんし、
今後の特許事務所はそういう方向を目指していくべきなのでしょう。
そういう求人もちらほら見えるようですし、
そうなっていくのは業界のあるべき姿だと思っています。

魅力的でない特許事務所が人を採用できないなら、
それはあるべき姿に戻っていっているだけのことです。
世の中不満を言う人というのは、それだけの理由が本人にあるのです。

 

水素牛の商標登録出願など、水素な時代を先取りした商標戦略

 

商標登録関連でtwitterでバズっていたので何だろうと見てみると、

「水素牛」という商標登録出願がされていたようなのです。
区分:29(牛肉)となっています。 水素水ブーム。
こういうのにあやかって商標登録出願というのも結構あります。
商標速報botでは次から次へと公開公報がツイートされ、
面白いものがピックアップされます。

f:id:patintl:20170530160327j:plain

これだけだとまあ、ふうんという感じですが、
続きがあります。

[商願2017-50843] 商標:[画像] / 出願人:糟谷 繁子 / 出願日:2017年3月31日 / 区分:29(豚肉)

f:id:patintl:20170530160434j:plain

[商願2017-50844] 商標:[画像] / 出願人:糟谷 繁子 / 出願日:2017年3月31日 / 区分:29(鶏肉)

f:id:patintl:20170530160507j:plain言葉の並びがしっくり来なかったのか、英語で攻めてきました。

まあ普通はこれで十分でしょう。これだけでも、ああ、
何かスイッチが入ってしまったのだなと考えます。

しかし、これでは終わらなかったようなのですね。

 

 [商願2017-50845] 商標:[画像] / 出願人:糟谷 繁子 / 出願日:2017年3月31日 / 区分:29(食用魚魚介類) 

f:id:patintl:20170530161112j:plain

 

肉の次は魚。魚の種類ごとと言うのも芸がないと思ったのでしょう。
商標的なターゲットになりうるのは養殖魚と考えた、そのセンス。

魚はこれでいい。次は植物。
水素食物を制覇する野望はさらに続きます。

 

[商願2017-50846] 商標:[画像] / 出願人:糟谷 繁子 / 出願日:2017年3月31日 / 区分:1(肥料) 

 

f:id:patintl:20170530161247j:plain

今度は肥料来ました。穀物メジャーのような発想です。

上流工程はこれで終わり。今度はリテールを掌握する流れです。

 

 [商願2017-50847] 商標:[画像] / 出願人:糟谷 繁子 / 出願日:2017年3月31日 / 区分:43(飲食物の提供)

f:id:patintl:20170530161329j:plain

 

レストランまで。我々はもう水素で何もすることはできないのでしょうか。
もっとも「水素レストラン」とあって、そこに本当に行きたいか、
というとそこは非常に謎が残るポイントではあります。

・・・その後も「水素プール」「水素スタンド」「水素ワイン」
「水素バー」と、次々と展開していっているようです。

大変ですね。上田育弘さんもうかうかしてられません。

 

なお、ベストライセンス社は以下の出願をしています。

f:id:patintl:20170530173048j:plainf:id:patintl:20170530173106j:plainf:id:patintl:20170530173127j:plain


商願2017-048297 水素水 04 07 09... ベストライセンス株式会社 2017/04/10
商願2017-049633 水素製鉄 04 06 09... ベストライセンス株式会社 2017/04/11
商願2017-049691 水素インフラ 09 12 35... ベストライセンス株式会社 2017/04/11

こちらもド直球来ました。
仁義なき戦いは留まるところを知りません。

 

勤務弁理士と独立弁理士はここが違う

勤め人と独立している人というのは何が違うか、
なんてことを書くと何かすごくドヤってる感じがして
微妙ではあるのですが、やっぱり着眼点の違い
というのはある気がするので、その辺をつらつらと
書いてみたいと思います。

サラリーマンってやっぱり人からの評価というものが
軸になってきますよね。もちろん長い目で見ると、
人からどう評価されようが自分のスタンスを貫いた人が
最終的に上に来たりするようなことがあったりして、
そういう面白さもあったりしますが、
基本的には、70点の人は60点の人より偉い、
という世界観の中で生きています。

評価する人というのが明確に存在して、
その評価する人の評価を気にしながら仕事をします。
もちろん日常的には気にし過ぎてもしんどいのですが、
その辺の自分の評価軸と、上司や取引先の評価軸に
ずれがあると、赤ちょうちんで「あのバカ上司が」
とかそんなことを言いたくなるわけですね。

じゃあ独立開業すると違うの?となるのですが、
違うんですよ。でもお客様からの評価ってあるのでは、
となるのですが、経営者視点でのお客様の評価、
というのは絶対ではなく、単なる相性でしかないんですよね。
もちろん最低基準の仕事というのは存在しますし、
品質が大事であるのは間違いないのですが、
この代理人に依頼したい、というのは
そういう基準じゃないんですね。

では何か、と言ってもいろんなものがあると思うのですが、
一番評価軸として大きいと思うのが、お客様の仕事、
依頼者の抱えている問題点や状況を理解する能力だと思うのです。
その辺の状況把握ができれば、専門性という観点では、
こちらの方が専門家なので、あとはお任せ、という話になります。
どっちかというと金銭面のああだこうだがメインになりますね。
まあ勤務弁理士でもお客様の技術分野の理解が深ければ
評価は高いと思いますが。

それも評価では、って話になりそうですが、そうではなくて、
0か100かで割とはっきりと白黒でやすいんですね。
相対評価ということになりにくい。まあ相見積になったら
相対評価ですが、お金のところくらいですよね。
相対評価になりにくいあたり、昔からやっている人が有利
っていう先行者利益が生まれやすい土壌もあるのですが。

相手のことを理解していることが大事、ということを
一歩進めると、特定に相手に対して明確なメッセージを発する、
ということが大事になってきます。
そのメッセージを受け取った側が、これは自分のことだ、
と思うとそこに共感が生まれます。
信頼関係、というほど大層なものではなく、まあこの人なら
大丈夫だよね、と思える程度の安心感を広げていくことが
営業活動になっていきます。

特定の相手にメッセージを発するためには、
相手が目の前にいるのが一番わかりやすいのですが、
下準備段階ではそれは無理です。
1回会っただけでどれほど分かり合えるかも疑問です。
見えない段階から相手を探し出していく作業が出てきます。

そういう意味で、最終的に決めるのはお客様なのですが、
ある程度能動的な作業になってくる面が、
独立して仕事をやっている人の場合出てきます。
「自分は、こう」というのがはっきりしないと
打ち出すのも難しいですし、そういう結果として、
独立弁理士の営業活動は「人それぞれ」という面が色濃く出ます。

つまり、自分の意志で何かを選び、そこにフォーカスする、
ということが大事になります。それって特定の相手に評価される
ことが中心になる勤め人とはかなり違いが出てくると思うのです。
その結果として、努力していかなければならない方向性は、
かなりガラッと変わっていくのですね。
その結果、「やってみよう」という部分が多くなります。
そこに人の承認を得る必要がない分、今度は片っ端から
やっていかなければならなくなっていきます。

一方で勤務弁理士の人が、「英語を勉強する」とか、
「外国法を勉強する」とか、あとは司法試験を目指すとか
そんな方向になりがちなのは、多分人から評価される、
という世界観の中で生きているからだと思うのですね。

自分もまあそうだったので、例えばTOEICの勉強に励んだ時期も
あるのですが、独立して何が必要かが見えてくると、
評価されるための努力というのがあまり重要じゃないな、
ってなってきて、努力のリソースを配分する方向性が
明らかに変わってきました。

なので、独立するなら、結局違うルールの世界に移ることになる
という観点からも、早く独立した方がよいのかな、
という結論になるのだと思います。

自分がこんななのも、自分のカラーが必要だからという面があります。
自分らしさも出てきたようで、あまりはっきりとしていないようで、
まだまだこれからです。

PCT出願(国際特許出願)について記事をまとめました

www.umepat.com

知財業務というのは、何かと依頼人の方に誤解されやすい
ものが多いのですが、その中でも一番はやはり
PCT出願なのではないかと思います。

弊所のサイトでは、お客様と面談をして理解の齟齬が
あった内容については極力アップデートをして、
ネット記事を見れば大体わかるようには作っています。
が、国際特許出願という考え方が、そもそものところで、
世界特許といった考え方をされている方が多いことから、
なかなかその辺の誤解を解くのに時間がかかります。

そしてまた手続きの流れも分かりにくいのです。
もちろん通常の特許出願の流れだって大体混乱されます。
審査請求制度というのがあまりしっくりくる制度ではないのです。
米国特許のように出願直ちに審査、の方が理解しやすいのです。

それでも特許制度についてはそれなりに分かりやすい
サイトも多いですので、調べる意欲があればまあ大体
理解することは難しくありません。
しかしPCT出願については、教科書的な流れをベースに解説
されているものがほとんどです。PCTルート、パリルート、
という解説はなかなか頭にすんなり入ってこないでしょう。
何がどう違うのかわからないと思います。

そういう観点から情報をつぎはぎで足していったのですが、
網羅性を高めれば高めるほど却ってわかりづらくなるのですね。
フローにするのもなじみにくい感じがします。
一体いかがしたらよいものやら。

 

追記:ブログのデザインを変えてみました。適当に設定してそのままだったのですが、ある程度cssとか覚えていった方がいいのかなあと思い、試行錯誤中です。

これからの弁理士は年収が上がっていかない

さあ、短答試験も終わっていよいよ論文試験に向かう中、
気持ちをくじくような記事がさっそく来ましたよ。
まあでも皆さん、なんとなくそんな気はしていますよね。

弁理士・特許技術者は人材が取れないとあちこちから
声がかかってきています。求人事情は応募者側すると
好ましい状況にあるといえるでしょう。
しかし応募者サイドから見るとどれも似たり寄ったりですよね。
皆さんにとって関心があるのは、入った後待遇は上がっていくの?
というその一点だと思われます。そしてその先行きは暗いです。

もちろん実力主義ですから、ものすごく実力のある人は別です。
ものすごく素晴らしい明細書を、非常に効率的に書けて、
顧客の意向を見事にくみ取るようなすばらしい弁理士
どんどん待遇が上がっていくでしょうね。
しかし、皆さんはそのような素晴らしい人材なのでしょうか?
試験に受かっただけではただの人ですよ。

まあ大方の弁理士試験合格者は平凡な方だと思います。
平凡というのは、有名大学を出て、温厚従順に与えられた職務に忠実で、
弁理士試験に受かる学力相応の技術理解力と、英語力がある、
そういう意味です。この辺はまあ当然ですよね。
文系弁理士の方であればTOEIC 800点くらいがスタートラインです。

もちろん、この水準に満たなくても就職はできます。
そもそも弁理士資格というのは、ドロップアウトのための
救済資格ですから、このままだと食えなくなる可能性が高かったところ、
弁理士資格を得て就職したおかげで、多少は食える生活はできるだろう、
という見通しはあると思います。
そういう方にとって弁理士資格はお勧めできます。

このブログで言ってきた、「この資格は一応食っていけるよ」
というのは、このレベルのことを言っています。
なんだか一部のものすごくブイブイ言わせている世界の方と
肩を並べるほどに稼げるかのような錯覚をしている方がいたりしますが、
それは何かに騙されてますよ、ということは申し上げます。

弁理士が稼げた時代、というのは、弁理士取得=独立開業、だった時代です。
そんな時代に弁理士を自分の特許事務所に引き留めるのだから、
それなりの待遇を保証しなければなりません。
大量合格時代の到来とともに、勤務弁理士が一般的になりました。
そして弁理士資格を取得しても企業を辞めない方が多数派になりました。

なのですから、弁理士資格を取得したところで、特許事務所も
特別待遇などしません。なんにも優遇していないのに、
なぜか弁理士比率が上がってきた、という特許事務所も多いでしょう。

それでも弁理士の受任案件の単価が上がっていくようなら
話は別でしょうけど、単価は下がったまま据え置きです。
それでいて案件数は増えました。品質はいろいろ要望します。
その結果、時給換算だと別に給料上がってないね、というのが近年の状況です。

要するに、今の状況は安月給でしっかり働いてくれる人いないかなあ、
とそういう求人がほとんどなのです。
もうちょっと業界全体で、安い仕事は蹴るような状況が生まれてくれれば
ある程度改善の目もあるのでしょうが、しわ寄せを末端に押し付ける
悪弊は何も変わっていないようです。それじゃあ人手も足りないでしょう。

弁理士業界の未来は明るいです。弁理士試験頑張ってください。