弁理士うめざわブログ

特許事務所の弁理士による、特許事務所業界ブログ

専門家の専門性とは、クライアントによって定義される

我々弁理士はいわゆる一つの専門家としてご依頼をいただき、
売上を立てている訳ですが、果たして本当に自分たちは
専門家として専門性を発揮できているのか?
という疑問が出る局面があります。

一番多いのは、例えばお客様が大手企業で知財部があり、
向こうの方が知識も経験もある、というような場合です。
こういうとき、向こうの指示通りに処理を
進めるということがあったりしますが、
そういう時にただの下請けではないのか、
という状況が発生することがあります。

得てして我々は専門性の高さを絶対評価
考えてしまうのですが、実際のところ、
専門性というのは相対的なものであって、
専門性を持たない相手との関係で
自分は初めて専門家たりえるのではないか
とそんな風に思っています。

例えば業界内でも一目置かれるような知識や経験
のようなものが専門性だと思われがちなのです。
一方で、知識も経験もないようなお客様との関係で、
業務をうまく取りまとめることは出来さえすれば
それで十分専門家足りえるのです。

クライアントの要望に対して
必要な解答を出すのが代理人の仕事です。
「分からない」というお客様に対して
答えを出すことができるなら、それは専門家ですよね。

ですので、逆に高度な専門性を持つ発注者の指示を
トレースするのならば、それが専門家であるか、
というと、それは専門家であるのかどうかは
疑わしいですよね。

だとすると、専門家が専門家足りえるためには、
専門外の方とのインターフェースと言うのが
大事になるのではないかと思うのです。

内輪で固まって、内輪の論理で専門性を
掘り下げるのも、確かに有用な議論もあるでしょう。
一方で、知的財産と言うものの捉え方が分からない
という、専門外の方の視点に対して、適切な切り口を
与える、というのが専門家に求められていること、
なのではないかなと思います。
基本的には「そうではなくて、こうなんだよ」
というアドバイスこそが依頼人に求めていることですから。

そしてそれを一歩進めると、どのような固定観念を、
専門外の方が持っているのかということに対して
視野を広く持っておくことが大事かと思います。
意外と知識については知っていたりする一方で、
制度の仕組みとか、論理構成、考え方、という
ものの方がなかなか理解に到達するのが難しい
ことが多かったりします。

知識ベースがない方の話を聞いて、「そう考えるか」
というのは、そういう意味で、日々新鮮だなと思います。
色んな見方に触れて、視野を広げることが大事です。

小さい特許事務所でどう求人・採用を考えていくか

一時は仕事が細ったりすると、もうこのままやっていけるのか、
と不安になったりするのですが、しばらくすると唐突に
受任業務量が増えてきたりします。
あんまり多忙になるのも、ってのもあるので、
誰か一緒に働いてくれる人がいると良いな、
ということを思ったりもします。

だからと言って安易に求人してよいのかという疑問があって、
この規模だとある程度即戦力性が高くないといけない、
というのがあります。
こだわりの高品質業務、というのは求めませんが、
色んな事があるので、なんでもそれなりにこなす、
と言うのが求められます。現状は定型性が低いのです。

要望はいくらでも考えられますが、当然それに見合った
待遇を提供しなければならないわけです。
が、現状の売り上げだと、そこから配分できる
取り分はどうしても限られてきます。
まあ人取った結果、受任業務量が増え、売上が増える、
という期待はありますが、現状の数字にはまだありません。

もっとも、待遇と言っても給料の額だけではありません。
例えば今事務スタッフさんに働いてもらっていますが、
子育てがあるので、フルタイムで働けない、
という事情があり、この時間からこの時間までと、
時間の制約があります。
それに応えられる求人と言うのも世の中多くないのと、
応募者側にそういうニーズがあるのは知っていたので、
開業前からそういうスタッフを最初に採用する、
というのは最初から決めていました。

そんな応募者像をある程度絞り込んで求人を書いたところ、
無事に事務スタッフの採用が決まり、仕事を分担してもらって
現在非常に助かっている、という状況があります。

ですから、次に求人を打つ際にいは、どういう応募者か、
ということをイメージしながら、何を応えられるか、
というものを整理しなくてはなりません。
話が違う、でもめるのが一番面倒ですし、
前職の採用でも経験したのですが、応募者像をきちんと固めて、
何を要求し、何に応えることができるか、をはっきりさせると、
採用活動も、採用後の業務分担もすぐにスムーズにいくのですね。

偉そうなこと書きましたが、もうちょっと楽をしたいなあと
そんな気持ちになる今日この頃です。

クライアントファーストとは、従業員ラストの意味

クライアントファーストなる文言に私はもやもやするわけです。
特許事務所でもそんな言葉が出てくる事例が出てきていますよね。
それっていったい何なんでしょうね。
先日の都議選では都民ファーストが躍進しましたけど、
それも私の疑問に拍車を掛けます。

料金をいただいてご依頼をお受けしている訳ですから、
そのご依頼にこたえるのは当然のことなわけです。
クライアントファーストと言うのはそれ以上の
優先順位をつけるということですよね。

クライアントファーストではないってどういうことなんでしょうか。
お客様の要望に応えない、後回しにする、意図をくみ取らない、
というのは第一主義とかではなく、単に勤務態度が悪いだけですよね。
しかもなんとかファースト、というのは相対的なものですから、
他がひどければ、顧客対応がひどくても、
クライアントファーストは理論上成り立ちます。

語感的には、自分たちよりも顧客の優先順位を上げる、
ということにニュアンスが置かれているような
印象を受けます。都民ファーストの会は、
「自分ファーストの議員から、都民ファーストの議員へ」
等と述べていますから、「自分本位ではない」
ってことなのでしょうか。
若しくは「お客様は神様です」ということでしょうか。

しかし顧客優先は言うまでもなく当然に出てくる話でして、
そこをあえて覆すというのはそれなりに理由があるから
なわけですよね。
例えば顧客が値下げ要求する中で、それに応えない、
というのは利益やコストのバランス上出てくる話です。
無理な納期期限に対して、それは厳しいと返答する、
というのは自分の会社を守るためです。
普通は理由がある行為ですよね。

クライアントファーストと言うということは、
その辺の序列を崩してまでもあえて顧客寄りに設定する
ということでしょうから、そのしわ寄せは従業員に
来る訳です。クライアントファーストで、俺セカンドだから、
お前ら後はしっかりやれよと、そういう順位付けなのですね。

顧客重視もそれはそれで必要な視点ではありますが、
日本の企業はそこを重視しすぎたために雇用環境を
悪化させてしまったような気もしますので、
実は従業員ラストでした、とならないようになりたいものです。

ここの所仕事が立て込んでブログの更新がおろそかに
なってしまったのですが、ニュースは入ってきますので、
そんな中微妙な連想が働いてしまったりします。

平成29年度弁理士論文試験(必須科目)、問題解答の公表

今年の弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)問題及び解答(平成29年度-2017年)
http://www.jpo.go.jp/oshirase/benrishi/kako/mondai/h29benrisi_ronten.htm

が公表になりました。

今週の日曜日が弁理士論文式試験の試験日だったのですね。
自分は仕事にすっかり追われていてここ1週間更新してませんでした。


論点は以下の通りです。
PDF記事を見るのもかったるいでしょうし、
内容的にもあっさりしているのでそのまま写します。
ニュース性の高い事項ですから特に問題ないでしょう。

【特許・実用新案:論点】
【問題Ⅰ】
以下の事項についての理解を問う。
1 国際出願の出願手続、国際段階における補正、及び国内移行における手続
2 外国語書面出願の概要・趣旨
3 外国語書面出願の補正及び誤訳に関する拒絶理由
【問題Ⅱ】
特許権に関する以下の事項についての理解を問う。
1 侵害の要件
2 試験又は研究のためにする特許発明の実施
3 裁定による通常実施権の設定
4 冒認の無効理由

【意匠:論点】
【問題Ⅰ】
意匠法上の物品についての理解を問う。
意匠法が規定する画像を含む意匠の保護の理解を問う。
【問題Ⅱ】
意匠権が独占権であることの理解を問う。
意匠登録無効審判の請求、先使用による通常実施権の抗弁、先出願による通常実施権の
抗弁の理解を問う。

【商標:論点】
【問題Ⅰ】
商標登録の異議申立制度及び無効審判制度についての理解を問う。
【問題Ⅱ】
1 商標法第4条第1項第17 号についての理解をTRIPS協定との関係で問う。
2 商標法第4条3項についての理解をパリ条約に基づく優先権主張との関係で問う。
3 商標法第3条第1項各号についての理解を「その商品」との関係で問う。
4 商標権侵害の主張に対する抗弁についての理解を問う。


特許と商標で国際出願を絡めてきました。
商標法第4条第1項第17号の趣旨とか、聞かれると焦りますよね。
「知らないと解けない」という問題が多めな印象です。
年によっては、メジャーな事項を抑えておいて、
なんとなくそれっぽいことを書いておけばいい年なんかもありました。
論述力とかよりも、直前まで基本書読んでろってのが今年の問題でしょうか。

特許法は国際関係を中心に手続き主体を、
意匠・商標は趣旨をきちんと理解しておくように、
というメッセージが隠れているのかもしれません。
まあそのメッセージを翌年あっさりひっくり返してくるのが
某官庁でもあるのですが。

選択科目のある人は、これからが終盤戦です。
モチベーションがこの時期本当に切れるんですよね。
口述対策は8月に入ってからが目安です。

特許事務所の転職先は年寄りが多いところが比較的無難


転職を考えるとき、一般論的には若い人が多すぎる職場は
避けた方がよいです。これは特許事務所に限った話ではありません。
若い人が多いということは、人がそれだけやめているということです。
そして、人生設計の中心に据える職場として、
非常に不安が残る環境の可能性が高く、それが理由で、
年齢が上がるにつれて離脱する人が多く出ている可能性があります。

特許事務所なんてのは、新卒で勤めるような職場ではありません。
何らかの職を経験して、転職してくるような職場です。
ですので、必然的に相応の年齢以上になるはずです。

ということを思うのですが、年齢層の高い低いで、
職場環境はどう違うのかをまとめてみました。

1)年齢層が高い職場は残業が比較的少ないです。
理由は簡単で、年寄りはそんなに遅くまで働かないからです。
そんなスタッフが多い職場で早く帰っても、特に咎められる
ことは少ないでしょう。

2)例えば60歳の人の応募を受け付けて、採用する、
ということは比較的少ないと思います。
スタッフの年齢が高いということは、それだけ長く勤めている、
ということが考えられます。
人の出入りが多い特許事務所は少なくないですし、
そういうところほど年齢層は低めに出がちです。
定着率が高いのでは、という推測が働きます。

3)年齢が上がるにつれて、華やかさ的なものよりも、
人生設計のできる職場かどうかの方が気になります。
高年齢の人が働けている、ということは、人生設計的に
何とかなる程度の勤務環境と待遇があるのでは、
という推測が働きます。


こう見ていくと、すごく良さそうな感じがしますが、
マイナス面を検討してみます。

4)活気はありません。今日も明日も明後日も、
同じような生活であり、その繰り返しです。
キャリアアップとか、そういう考えも乏しいでしょう。
でも、特許事務所なんてそんなもんかもしれません。

5)体質が古い
フレックスとか在宅勤務とか、今風な制度には前向きでは
ありません。けど弾力的な勤務時間なんてのは、
得てして慢性的な長労働時間を正当化するために利用されている
というのが実情ではあります。
定時に出勤して、定時に帰る、というのが実はもっとも
人間的な暮らしであるような気もします。

6)柔軟ではない
決まったやり方や決まった業務以外のことに対して、
前向きではないかもしれません。
変化に対応できない、というのは案外若い世代に対しては
ストレスになったりします。


結局、転職というのを攻めの視点で見るか、
守りの視点で見るかで、希望する勤め先は変わってくると思います。
ただまあ、自分の感触だと、転職希望者は全般的に、
転職の希望に対して保守的な傾向があるように思います。
だとすれば、ある程度老舗の特許事務所の方が
比較的間違いは少ないのかなとそんな気はします。
まあもちろん一部ハズレもありますので、そこは要注意ですが。

個人的には、変に華やかすぎるムードをつくっている
特許事務所・法律事務所はちょっと危険な印象を持っています。
具体的な例を挙げるとわかりやすいのですが。
特許事務所が華やかなはずもなく、盛っているということですから。