弁理士うめざわブログ

特許事務所の弁理士による、特許事務所業界ブログ

2017年の仕事納めと反省

年末というということですので、やはり今年を振り返る
ということが一般的に恒例となりますし、
本ブログの1年前を見てもそんな記事でしたので、
今年も振り返ってみたいと思います。

昨年の記事を見て営業手法の開拓を何とかする、
なんてことを書いていましたが、1年終わってみて、
何にも着手していないということに気づきました。
というか、丸1年全く営業活動をしていません。
去年もやっていないですが。
けど仕事は増えてたというそんな状況です。

今年何をやったのかというと、法人を作りました。
株式会社でもよかったのですが、合同会社にしました。
法人税についてこれから勉強するのもやってられ
ないので、法人の方は税理士の方に
お任せすることにしました。
ですので、これに伴う会計処理が今年一番変わった
ことになりますが、ブログ的には地味ですよね。

また、スタッフの方を採用してから1年半になります。
最初の頃は渡す仕事が多くなくて、渡してもすぐ
終わってしまって次何を渡そうかが悩みでしたが、
秋ごろからそんな心配は全くなくなりました。
それどころか、渡すべき仕事があふれすぎて、
ごめんあと1日出てきてくれないかなとか、
そういう状況になってきています。
年明けに繰り越している仕事も出てきました。

となるとそれに比例して自分の仕事も増えてそう
なのですが、そこまで増えているわけではありません。
仕事に追われているのは変わりがないのですが、
スタッフ向けの仕事の増分ほどには自分の仕事の
量が増えてないです。もともとあふれて
いるので、増えてもこなせません。
要するに自分から相手に渡す分担の比率が
増えたってことなんだなあと思っています。
チームとして機能向上したってことでしょう。

となると次は技術を担当する方が増えるとよいなと
そういうことになります。
ただ、単なる被雇用者となると、こんなところに
応募する人もほとんどいないですよね。
それでいてある程度の力量のある方でないと、
仕事を切り盛りできません。指導する余力はないのです。

ですので、入ってくる方は、ほぼ対等な立場の
パートナーであるということになります。
分配や権限をどうするか、というのは考えても
答えは出ないのですが、それも相手次第なので、
考えても答えは出ないのかもしれません。

儲かった時は折半、しかしダメなときは一緒に
我慢してもらわないといけないのです。
まあ従業員の採用ではないですね。

どういう人を求めるかというと、
・ソフトウェア周りの明細書がある程度書ける
・事務所内のITシステムの導入についてある程度分かる
・チームになるので、対人関係がある程度こなせる

という条件ということになります。
上2つは私の力量が基準になりますので、
優秀な人にとってみるとそんな大したレベルではないですが、
そういう優秀な人を引っ張ってくるのは大仕事です。

求人打って人取れるのだろうかというのも
懐疑的な感じなので、個別に声をかける感じに
なるんでしょうけど、日々の仕事に追われていて、
対人関係を増やす時間が減り、そんな目星もありません。

後は引っ越しだったり、ウェブサイトのバージョンアップも
控えています。それぞれに大仕事です。
進めてみたいことはあれもこれもと出てくるのですが、
一足飛びに同時に進めることはできません。

1年振り返ると着実に進んでいる感じはするのですが、
常に目先のことに追われている感じはします。
日々、ただしんどいなあとそんな1年1年です。

独立後の特許事務所は、仕事が来れば直ちに儲かるというものではない

まあ前回の話の繰り返しなのですが、弁理士として独立した後は、
「仕事が来るか?来ないか?」が最大の関心事のようです。
それはまあ確かにそうです。仕事を集めてくるというのが
独立開業のハードルの第一歩であり、
そこを軌道に乗せないと生活費を稼ぐことができません。

なので、仕事が来れば直ちにウハウハと思っている人が
あまりに多いようなのですが、そんなことはありません。
収益につなげるにはもう1ステップ必要です。

例えば自分は独立して最初にやったのは商標の
出願とか中間処理だったのですが、
1人でやって正確にやる、という部分の
負担の大きさというのは、大きな組織を
やめてみないと分からないでしょう。

勤務の方は、ほとんどが実体業務だけに特化して
いるかと思います。願書をつくることは
案外やっていない人が多いようですし、
自分である程度作ったとしても、
誰かがチェックしてくれます。

あとまあ大手企業の仕事を受けている限りにおいては、
発明者氏名以外は記載事項は全部同じです。
発明者居所ですら同じになります。
ここで間違いようがありません。
大口の業務のよいところは、こういうところで
定型化しやすいところですね。
けど弊所のような小規模事務所では
そういう仕事は扱っていません。

お客様の依頼内容を確認して、内容をチェックして、
正確に手続きをして、請求書を切り、発送する。
最初はそれだけで1日つぶしていたのです。
そんなんで儲かる訳がありません。

それでも最初の頃は依頼数も多くありません。
少ない業務をじっくりやって間違いなく
処理を進めていきました。
また、お客様への価格交渉力も高くありません。
安く受けて効率的でない仕事をしていたのです。
これでは依頼を集めることができても
儲かることはありません。

ある程度忙しくなってきたところで、
手早く進めようとしたら、確認が疎かになって
ミスをしました。
もう今だから振り返れますが、とにかく憂鬱ですね。
リカバーのできる処理だから何とかなりましたが、
リカバリー自体がすでに非定型業務なわけです。
そのこと自体がすでに慣れません。

会計処理だって試行錯誤です。
いろいろ調べて、これで本当にいいんだろうなあ
とか思いながら進めていきます。
税務署も特に何か言ってくるわけでもありません。

何処かで慣れることで、効率化されて利益率を
向上させられるのだろうなあと思うのですが、
自分はずっと慣れなかったですね。
自分はどうやって改善したかというと、
スタッフを採用してからです。
彼女は色んなことに対して経験があったので、
うまくこなしてくれて、ここで初めて
収益面でも目処が立つようになった訳です。

まあ自分は独立前から、最初の採用を完結するまでで
ようやく一段落と思っていましたから、
そこに向けて少しずつ進めていったのですが、
仕事が来ればもうそれでオッケーと思っていたら、
やっぱりそれは先行きが多難ではないかと思います。

自分の独立について話をするとき、営業だけがすべて
と思っている方が、あまりに多いなあと思うのですが、
先の投稿にも書いたように、営業とは、お客様に対して、
発注するに相当する安心感があることを示すことです。
一番最初の見積依頼は、色々あたふたしてしまったので、
受注にはなりませんでした。
見積もりをしてくださったのは、もともとの知人
でしたが、それでも不安に思われたら受任できません。

独立当初の軌道に乗る前は、我ながら本当に
この人大丈夫かという状況だったわけです。
それを消していくのが営業活動なのですね。
そしてそのことを広く伝える活動になります。
最終的に選ぶのはお客様ですから。

その上で儲けようとしたら効率化という面は
避けられません。価格は相場というものがあります。
効率化と、品質及び正確さをどう両立するかも
業務努力になります。
それは単に実体実務経験がありますだけで
補えるものではありません。

その辺の念頭にある部分が、独立している人
同士だとある程度分かりあえるのですが、
勤務している相手だと、根本的に伝わっていない
部分が多かったりします。
まあそもそもの部分で業務オペレーションを
軽視する人は世の中結構多いですしね。

まあ仕事が来るようになってから先が長いです。
営業だけがすべてでもない点は強調しておきます。

独立後の弁理士業務は楽勝と思われている風潮

特許事務所の独立開業についてどう思うかという点
については、独立は難しいと思われているようです。
その理由は、仕事を取ってくるのが難しいから。

ただ、取ってくるのは難しいけど、
仕事そのものは楽勝と思われているような気がします。
基本、隣の芝生ですから、実像を想像できずに、
実体と違った想像をすることは多々ありますが、
多分そこは逆なのではないかと思うのです。

まあ楽勝な仕事を集めてくるのは非常に難しいです。
さすがにそこは甘くないです。
ただ、仕事を集めてくることが非常に困難か、
というとそこまでではないように思われます。

世の中には引き取り手のない仕事、とっかかりも
つかめないような仕事というのは結構あふれています。
楽な仕事というのは、どこかで引っかかりますから、
なかなか自分まで流れてくることは少ないです。
が、人を選ぶような仕事であれば、アンテナを高く
しておけば、そこで仕事は回ってきます。
実情としては、仕事をこなす方が難しいです。

あと、単に特許出願する、商標登録出願する、
というだけでも、事務処理なんかも発生します。
業務が定型的になるほど、価格への圧力も高くなります。
効率よくこなすことも求められるとともに、
正確に手続しなくてはなりません。

こういうのは当たり前の話に聞こえるかもしれませんが、
ある程度組織が大きくなって業務フローがあり、
スタッフ全体にその仕事の慣れがある状況だからこそ、
当たり前にこなせているのであって、
その当たり前の環境というのは
最初からあるわけではありません。

例えば勤務弁理士であれば、1か月6件明細書を書いて、
中間処理なども、と考えるかもしれませんが、
それは業務フローの中のごく一部をやっているだけに
すぎないのです。独立後にそんな案件処理はできません。
勤務時代はいかに全体をやっていなかったか、
というのは独立してみてから気づくことだと思います。

まあやってみなければわからない、というありきたりな
話になってしまうのではありますが、仕事が入ってさえ
すれば、あとはウハウハみたいに思っている人が
案外多いようで、取ってくるまでも大事ですが、
そこできちんとこなす体制つくりはもっと大事です。

営業って特殊な話のように思われますが、
要するに、「うちに任せればきちんと仕事をこなしますよ」
という安心感を与えることに帰結します。
しかし最初は、きちんと仕事をしたら効率よくこなせません。
そこの部分というのが、整備された環境で働いている
人たちには、なかなか理解できない部分のようです。
まあ自分も勤めていた当時は、実務自体は楽勝でしたし。

得てして自分がやっていない部分は楽勝だと思ってしまう
ところはあります。企業知財部の人間からすれば、
明細書作成なんて簡単なことをなんで特許事務所の人間は
簡単にできないのか?なんて思ってますし、
事務所サイドでは、企業側は楽な仕事をしている、
と思ってる人が多く、
明細書書きからすれば、特許出願以外は
雑務だと思っている人が結構多いように思います。

全体を一手にやるようになって初めて、
「大変だなあ」になるとともに、
それをきちんとやれるのであれば、
仕事は依頼をされるようになってくる、
というものだと思っています。
まあ「きちんと」と「効率よく」の併存は
一朝一夕にはいかないとそんな話です。

依頼人はなぜ値下げを要求するのか

特許事務所として大口のクライアントと取引していると
どうしても避けて通れないのが値下げ要求というものです。
値下げ要求はけしからんという話が弁理士会上層部も
含めて、いろんなところで出たりしているようですが、
なぜクライアントは値下げ要求をするのか。
そこには理由があると思われます。

最大の理由は、安い方がいいからです。
当たり前ですね。20万円のパソコンより
10万円のパソコンの方がいいです。
もちろん品質を保つことが前提ですが、
人がやるものですから、「当然品質維持で」
という要求と共に、値下げ要求は行われます。

次に、安くて高品質がよいのは当たり前ですが、
要求される場合とされない場合があるのは
なぜでしょうか。

なぜ要求されるか。要求すれば呑むからです。
要求しても「のめません」と回答したり、
それが品質低下として明確にアウトプットしていく
ようであれば、客側も躊躇します。
代理人側が弱い立場に置かれ、値下げ要求をはねたり、
対抗手段を取れないとみなされるから、
値下げ要求という形になっていくるのです。

うちも値下げを求められることは多いですが、
よほど欲しい案件の場合以外は、常に断っています。
特に特許出願業務で値下げをすることはありません。
「値下げを希望するのであれば、依頼しなくて構いません」
と伝えています。要するにこれだけのことなのです。
値下げ要求に憤るよりもまず、断れない自分に
憤らなければなりません。

まあこれだけのことではあるのですが、
依頼人側がどうしても値下げを希望する場合
というものがあります。まあこの辺の話は
前書いた気がしますが、改めて説明します。

携帯電話の料金なんかが典型ですが、
毎月固定費として発生するものは、
どうしてもコストの大きさが感じられます。
継続的に発生する固定費は、削減しようという
動機づけが働きます。
大体みんなそうなのではないでしょうか。

年間何件とか特許出願をする会社にとっては、
特許取得費用というものはスポットではありません。
年間予算いくらで毎年発生する費用です。
家賃と同様の固定支出なのです。
こういうのは下げたくなりますよね。
皆さん支出削減するときには、
大体固定費から見直していくと思います。

逆に今回限りという支出は、まあ今回はいいや、
という形で大目に見ることが多いと思います。
典型的なものは遊興費ですね。
まあ次は支出を抑えよう、的な。

結局大口のクライアントというのは、
立場的な力関係として値下げをのませやすい側面と、
固定費としての支出の負担感から、
値下げ要求につながりやすいのです。付き合いの長い、
一見さんでない関係だからこそ値下げなのです。

独立してここまで来て思ったのが、スポットの
取引が多い方が、価格決定権はかなり強くなります。
相手に押し負けることが非常に少なくなります。
まあその分効率が悪い、という側面もありますが、
大手でも効率の悪い仕事もあります。
効率良ければその分値下げ圧力も大きくなりますね。

事務所も組織として大きくなると、スポットだけでは
食っていけなくなっていきますので、
そうなると、大口顧客を模索する流れになります。
現状は組織と言えるレベルではないので、
大手との取引は、自分にとっても相手にとっても
得ではない状況です。
やっぱり小規模客メインになっていくなあと
そんな状況になっています。

大手特許事務所なんかだと、最近はどうかわかりませんが、
単価の安いクライアントには新人を当てて、
成長したら単価の高いクライアントに当てたりして、
文句が出たら価格交渉みたいなことを
やっていた時代があったようです。
まあ客に舐められてはいかんということです。
そこのところはしょせん商売ということですから。
黙って高いお金を払ってくれるほど世間は甘くありません。

弁理士・特許技術者が駆け出しの頃に教わるべき事項

特許明細書を書く上で、必要なことは多岐にわたるのですが、
最初に何から習得すべきかということは、新人の時代が
遠い昔になると、それが何であったか忘れてしまいます。
ともかく、知財の職場では、特許事務所でも知財部でも、
最初にいきなり案件を渡されてOJTということになります。
それは多分どこでも変わらないのでしょう。
ちなみに自分は電気系ですので、そっちの話題になります。
多分、化学バイオ系の方には違和感のある話になります。

自分の場合は最初は企業知財で、拒絶理由通知の対応、
いわゆる中間処理から入りました。
それから、旧異議申し立てを扱うことになり、
それから明細書作成を担当することになりました。
そういう訳で、最初から特許請求の範囲を書いています。
中間処理でなく明細書から入る場合でも、
クレームを書くことから入ることが多いでしょう。

特許事務所に転職した後は、一応特許事務所未経験という
扱われ方はしましたが、一応やっているので、
完全未経験のような戸惑いはなく、一応自分なりの
スタンスで案件処理をやっていました。

まあとにかく、特許請求の範囲(クレーム)を書く、
という指導が最初からずっと付きまとうことになります。
当然片っ端なら直されながら、少しずつ身につけていく
修業期間から始まることになります。
明細書本文の方もサポート要件や文章を正確に書くこと、
整合性などの指導がたくさん入ります。
まあいろいろあるのですが、クレームの指導について
少し思うことがあります。

クレームを書くとき、広すぎず狭すぎず、適切に書く
ということは、どれだけ経験を積んでも難しいです。
そこで指導が入るのですが、駆け出しの頃に
いきなり権利範囲を広く書かせる指導をするのは
混乱させるのではないかという気がします。

広いクレームというと、漠然としたクレーム
になってしまいがちです。
例えば「机」というクレームを書いたとします。
これは非常に広いクレームですね。
けど何も特徴としての発明特定事項がありません。
クレームを書く際、必要な限定事項を網羅した段階から、
枝葉を落としていくという段階を経ると思うので、
最初に狭いクレームを書けないといけないと思うのです。
「あ、これはいらないな」と思った部分を削りつつ、
実施例の中に放り込み、中にはサブクレームに入れる
ということになっていくと思います。

ですので、発明特定事項を見出す訓練を積むことが
最初に求められることだと思うので、
適切な限定ができるように教えることが
必要だと思っています。
私は多くの職場に所属していろんな方に教わりましたが、
権利範囲を広げることばっかりで、どう限定するか、
については、これといった指導はなかったように思います。
ということは、多くの実務家の方にとっても
そうなのではないかという気がします。

クレームの狭さは確かになんとなく目につくので、
確かに指摘したくはなるのですね。
しかしよく見ると、まあその限定はあっても
大勢に問題はないか…となったりします。
まあ広い方がよいですが、人のをチェックするときに
そういうことまで見ているときりがなくなります。

一方で発明の本質を見つけ出して、この概念が必須の
事項ではないか?ということを抽出していくのは
それなりに内容を理解していく必要があります。
そういう面倒なことは特許事務所や知財担当者は
あまりやらなかったりしますね。
「目につきやすい部分をなんとなく指摘する」
レビュー行為にありがちな安易さが横行したりします。

どんな世界でも、駆け出しの人間が最初に身につけること
と指導者がなんとなく固執すべきことというのは、
結構ずれるということはありがちかと思います。
まあそういう部分も含めて最初は大変ということです。