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小保方晴子氏のSTAP細胞特許出願は拒絶査定で特許不成立

最近すっかり別人のような風貌になったと評判の小保方女史。
あれからだいぶたちますが、今なお注目を集めているようです。
論文や博士号については色んな結論が出ました。
残るは審査の待ち期間が長い特許出願ですね。
どうやら無事に拒絶査定と言う結論に至ったようです。

世間一般は、新規性・進歩性はあるけど実施可能要件を満たさない、
STAP細胞について理解しています。
当然のことながら拒絶理由通知も、拒絶査定もこれにそった
見解が言及されています。

最初の拒絶理由通知書が出てから、反論が必要になりますが、
ここで3か月いっぱいまで延長がされています。
まあ応答の担当者も困惑ですよね。世間一般の見解が出揃ったものに
今更何を言えってんだよと思ったでしょう。
もっとも、「ぶっちゃけ無理ですよね」と言っても、
まあ仕方ないな案件、である点で楽と言えば楽です。

一方で審査官も面子にかけて拒絶に導かなければなりません。
拒絶理由は、実施可能要件が当然本線にはなりますが、それ以外にも
新規性、進歩性、サポート要件、明確性、産業上の利用可能性と、
思いつくものすべて挙げてみたようです。うっかり特許にして
しまったら何言われるかわからないですからね。

拒絶理由通知で一番注目を集めるのはここです。概要としては、

「これNature論文のと同じ内容だよね。あれは嘘だったって認めたよね。
STAP細胞は実現できないって結論出てるんだから特許にできないよ」

ということを、丁寧な文章で述べています。

・・・
<発明の詳細な説明の実施例と同内容を開示する科学技術論文>
 まず、本願の発明の詳細な説明の実施例において説明された内容は、本願出願
後に公開されたNature誌掲載の参考文献4及び5の内容と同じものと認められる
ところ(以下、参考文献4及び5をまとめて「両Nature論文」という。)、
当該両Nature論文には、本願の発明者が共著者として名を連ねている
(特に、参考文献4の共著者には本願発明者全員が含まれる)。

その後、これらの論文は共に2014年7月3日に取り下げられたところ、
その際、それぞれの著者全員による文面として「これらの複数の誤りは
本研究の信頼性を全体として損なうものであり、STAP幹細胞の現象が
真実であるか否かについて、我々は疑いなく述べることができない。
(These multiple errors impair the credibility of the study as a whole
and we are unable to say without doubt whether the STAP-SC phenomenon
is real.)」と記されているところである(参考文献6,7第112頁それぞれの最終段落)。

さらに、両Nature論文の取り下げと同日に発行されたNature誌第511号においては、
論説として「両論文の全ての共著者は、最終的に論文を支持することができない
との結論に達し、それらの取り下げを決断した。(All co-authors of
both papers have finally concluded that they cannot stand behind the papers,
and have decided to retract them.)」とも記載されている(参考文献8)。
 一方で、本願の発明の詳細な説明の実施例と同内容を開示していた両Nature論
文(参考文献4,5)の研究内容自体、すなわち、外来遺伝子の導入等なしに低
pH等のストレス曝露のみによって細胞を脱分化させ多能性細胞を生成し得るか否
かについて、参考文献9には、複数の研究グループによって、低pH曝露等による
多能性細胞生成(STAP現象)についての再現実験が行われた結果(本願発明者の
一人であるVacanti氏の研究室で行われたと認められるものも含む)、両Nature
論文に記載されるようなSTAP現象を再現することはできなかった、と結論付けら
れている(参考文献9の第E6頁左欄第1,2段落, 第E8頁左欄第2段落)。
 その上、当初本願の共同出願人であった理化学研究所における解析の結果にお
いて、両Nature論文につき、用いられた全てのSTAP細胞関連材料はES細胞に由来
するものであったことが判明し、細胞ストレスによって多能性細胞へと再プログ
ラム化するという論文の証拠には異議がある、との結論となったものと認められ
る(参考文献10の第E5頁右欄第2段落)。そして、両Nature論文の共著者の一
人(本願発明者ではない)による理化学研究所の検証実験チームの報告において
も、STAP現象の実際の科学的重要性を調査すべく両Nature論文や関連情報に示さ
れた方法に基づいて再現実験を行ったものの、両論文に記載されたようなSTAP現
象は、再現不可能(not reproducible)であると結論付けた、
とされている(参考文献11のSummary)。
・・・

まあ世間で何回も語られてきた内容です。

他にもいろんな内容を述べながら、拒絶理由通知書は
全部で10ページに上っています。これはなかなかの力作です。
請求項や引用文献の参照など、コピペ含みで長い文章になることは
それなりに多くありますが、説明中心で
これだけの文章になることはなかなかありません。

自分は駆け出し20代前半の頃に1度だけ長文はありましたが、
1回目の通知への応答で、うっすいサポートを根拠に
知ったような補正をしたところ、審査官の逆鱗に触れたようで、2回目で
膨大な数の文献を引用して、同じような長文を食らったことがあります。
まあ他に争点もないくらい内容のない明細書だったので(中途案件)、
それくらいしか対応策はなかったのですが、
隣の席の先輩に見せたら爆笑しておりました。

それくらいに通常審査と比べればかなりの力作なのですが、
もしかして、こんなことは許してはいけないとの
審査官の正義の血が騒いだのでしょうか。
まあどっちかというと、世間注目のSTAP細胞ということで
必要以上に張りきったのでしょう。

拒絶査定は、上記部分を再度引用することでの通知となっております。
本線の実施可能要件を中心に、サポート要件も加えての拒絶査定です。
うっかり的確な反論が出てきたらどうしようと思ったかもしれませんが、
そういうことも特段なく、順当な内容での拒絶査定となりました。

まあまだ審判請求期間なので、もしかしたら審判で争う可能性もあります。
と言う観点で書誌情報を見たら、筆頭出願人は理研ではないのですね。

(71)【出願人】
【氏名又は名称】ザ  ブリガム  アンド  ウィメンズ  ホスピタル  インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】The  Brigham  and  Women’s  Hospital,  Inc.
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所

となっています。

よく見たら発明者もこんなですね。
我らがオボちゃんは筆頭発明者ではありません。

(72)【発明者】
【氏名】バカンティ、チャールズ  エー.
(72)【発明者】
【氏名】バカンティ、マーチン  ピー.
(72)【発明者】
【氏名】小島  宏司
(72)【発明者】
【氏名】小保方  晴子
(72)【発明者】
【氏名】若山  照彦
(72)【発明者】
【氏名】笹井  芳樹
(72)【発明者】
【氏名】大和  雅之


拒絶査定を受け入れるのか、拒絶査定不服審判に移行するのか、
後は分割出願をして審査請求する方法があります。
分割出願といえば上田育弘さんが得意なあれですが、
こちらはお金を払わないと割とすぐ権利が死んでしまいます。

現状を受け入れられないならペンディングにするかもしれません。
その辺もやや注目点ではあります。