弁理士うめざわブログ

特許事務所の弁理士による、特許事務所業界ブログ

高品質な明細書を書く能力というのはもはや価値がない

ま、ここまで書いてしまうと、そんな訳ないのは
書いてるこっちもさすがに分かってますが、
特許を書く能力というのは実は結構いくつかに
分かれていて、その中の文章作成能力、というのは
あまり価値は高くなくなりつつあります。

特許出願をする弁理士として一番必要とされるのは
営業能力です。これがあれば一応独立もできます。
まあ営業はさておき、その次に価値があるのは
何の能力でしょうか。

リーマンショック以前は、優秀なスタッフを
抱えていさえいれば、仕事はいくらでも
入ってきていたという状況でした。
しかし業界不況に入り、発注先が依頼先を「選ぶ」
という状況に様変わりしました。

明細書の品質というのは現場の人間にしか分かりません。
その一方で、会社というのは「選ぶ」という
裁量権を担当者には与えない傾向にあります。
ある程度小さい会社になると、担当者裁量になりますが、
件数の少ない会社では明細書の品質は現場も判断できません。
要するに、発注先を決める権限のある人は、
明細書の品質判断ができない人です。

じゃあどうやって決めるのということになるのですが、
裁量権を持つ人が理解できる能力を有することが必要です。
その能力は、正直言って会社によってまちまちです。
はっきりしているのは、明細書の品質ではないことでしょう。

特許担当弁理士・技術者として一番重要と思われるのは、
発明者からのヒアリング能力です。
発明発掘して、どんなネタをまだ出していないかを聞き出し、
可能であれば資料を揃えてもらうことです。
この能力は、開発の人にとっても、知財面が未発達な会社の
担当者にも伝わるものです。
どんな世界でも、自分が話したことを正確に理解できた、
となると、その人への評価は上がります。
特許の場合は、どんな依頼人でも、発明者レベルでは
大抵の場合は原稿作成は苦手です。
そこを抽出する能力が一番の評価の決め手になるでしょう。

その結果として出てくる原稿は、必要なことが書いてあって、
最終的にそれで特許に導くことができれば十分です。
望む権利にならないと、その時点で問題になりますが、
そうでない限り、それ以上には品質は問題になりません。
というか、この場合の品質というのは何を意味するのでしょうか。
訴訟・係争に強いというならわかりますが、
そういう観点でもないように思われます。
単なるコスト要因のような気もします。

多くの場合は相手の技術・製品を理解することが
相手からの信頼を得ることにつながると思われます。
それ以外にも相手にいろんな情報を提供できるとか、
相手の事情に合わせて柔軟に対応できるとか、
若しくは身だしなみが特にきちんとしているとか、
案外そんなところが理由になったりするかもしれません。

大手企業と大手特許事務所の取引関係では、
明細書の品質が、というのが現場担当者レベルでは
もちろん議題にはなりましょうが、
取引を決めているのはそんな理由ではないはずです。
品質管理と取引関係を厳格管理している会社も
もちろん多くあることは知っていますが、
そういう会社の取引条件は、受任側にとって
魅力がなかったりします。
要するにうるさい割に単価は安いのですね。
高品質な明細書に高い単価を出している会社を、
私は聞いたことがありません。
安い単価とより安い単価を差別化しているだけです。

自分の将来的なキャリア形成を考えたとき、
何を伸ばすべきか、というのは
よく考えた方がよいかもしれません。

実務系の話題がここのところなくなりつつあったので、
こういう話題をぶっこんでみました。