弁理士うめざわブログ

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今後特許翻訳者が生き残っていくための条件

 

特許翻訳関係の記事が思いのほか反響あるようなので
またちょっと書いてみます。リンクは自由ですよ。

以前の記事で特許翻訳はもう稼げないよという話

patintl.hatenablog.com

を書いたのですが、じゃあ逆にどうすれば生き残って
いけるのかという話を列挙していきます。
まあ主に日英の話みたいな感じになりますが、
逆に置き換えても大体あてはまるかなと思います。

1)自分で営業する

はっきり言って今の特許翻訳の世界で求められていることは、
品質よりもコストです。にも関わらず特許翻訳会社が
これだけ営業的に成功できるのは、安い翻訳者を
いくらでも確保できるからという自信があるからなのでしょう。
裏を返すと、単価を確保するには自分でつながるほかありません。

間にエージェントを挟んだ時点でマージンを取られるのは
避けられません。むしろ他の一般の業界と比較すれば
翻訳会社のマージン率は良心的であるとすらいえるでしょう。
それは、経費と利益率をなんとなく計算すれば自ずと出ます。

知財の世界に限らず今はどんな世界もコスト削減です。
インターネットが普及して中間業者省略の時代の趨勢の中、
直接つながることでコストを落とせる方が
自らの競争力は上がることでしょう。
翻訳会社にフラストレーションがためながら、
営業については依存するというのは矛盾しています。


2)原文の文章を正確に理解する

今更当たり前のことに思われますが、
特許翻訳に求められることは、1にも2にもこれです。
訳語の選択については得てして技術者の方が詳しいですし、
特許翻訳の英文法については、そんなにバリエーション
もないので、結局原文の理解力で差が大きく出ます。

特許翻訳って英語屋さんの仕事のようで、
案外英語力で左右されるような局面って多くはありません。
法律文書として意味内容の正確な変換ができれば
それで十分なので、洗練された英語表現などというのは
あまり必要でもないのです。伝われば十分なのです。

意訳というのは原文の技術内容への精通度合いに
左右してくるものなので、結局英語力でもないのです。
これらの事情から、特許翻訳については
英語力よりも技術へのバックグラウンドというのが
優先されることになります。
英語力微妙でも、内容理解が正確なら、あんまり極端な
訳語品質の乱れってのはそこまでは起きないです。

こういうこと書くと英語屋さんの中にはむっとされる
方も出るかもしれませんが、特許事務所側の人間の
見解というのは多かれ少なかれこんなもんですよ。

ついでに言うと、英語表現が熟達していても、
特許事務所の人間はそれを理解しないので、評価対象外です。
下手すれば中途半端にプライド高くて反感買ったりします。
大抵の場合は、中学レベルの英文法でまとめる方が
評判は良いですね。一部テクニカルタームを除いて。


3)変な日本語に対する処理の熟達

原文理解の話とも共通する話ですが、原文のいまいちな
表現から内容把握して、それを正確に表現する能力が、
特許翻訳者として生き延びるための核となる能力
となっていくものと思われます。

はっきり言って、特許翻訳なんて翻訳ソフトで
一括変換できないかなあなんて思っている人
そこいらじゅうにいくらでもいますよ。

しかしながら、特許翻訳を正確に実現するソフトは
これからも出てくることはないでしょう。
それはなぜか。元の日本語がでたらめだからです。

機械翻訳は、原文が正確な文章であることを
前提として文章を変換していきます。
それでも翻訳精度はまだ不十分ではないというのに、
的確さに欠けていたり、不正確だったりする文章なんて、
一気に誤訳が増大していきます。google翻訳あたり
ためしてみると、この辺は一発ですね。

よく独りよがりで分かりにくい日本語を嘆く
特許翻訳者の方がいたりしますが、
それは今となっては逆だと思うんですよ。
日本語が変だからこそ食い扶持があるのだと思うべきです。

現状でも外国案件に強い事務所なんかだと、
ある程度翻訳を想定した日本語を書いていたりして、
翻訳処理の困難性を最初から下げてあったりします。
そういう原文の翻訳って、英語力なくてもできますし、
またスピードよくこなせることから、外注よりも
インハウスで時給換算で支払う傾向になっています。

要するに洗練された日本語の翻訳ってのは、
翻訳単価もまた叩かれた状態になるってことなのです。

いい加減な日本語書いてるから、翻訳外注した時に
誤訳が乱発されて、いい翻訳会社ないかなあ
という話になるのです。
そういうのを的確に処理する翻訳者が重宝されるのですね。

さて、1)から3)まで書いてて思うのですが、
今や特許翻訳者に求められる能力はかつてなく高くなっています。
とともに、そんな能力あるなら特許技術者として
通用するよね、という風にも思うのです。
明細書を書く経験を一度はどこかでした方がよいかと思います。

 

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